長良川カヌー転覆記

長良川

第一部 出発
 長良川は日本でも屈指のカヌーイストのメッカである。景色、水質、瀬の難易度どれをとっても上位にランクされる。ただしカヌーの腕があればだが・・・春とは言えまだ川の水は冷たい。できれば泳ぎたくないものである。
 カヌーは組み立て式の直進性の高い物、プレイボートと呼ばれる不安定だが小回りのきくもの、そしてカナディアンカヌーの三廷を持っている。今回はプレイボートを持っていく。長良川までは石川から三時間の行程。目的地上流の郡上八幡ではちょうど桜が満開であった。パートナーと言うより先導してくれるのは長野に住んでる友人のアラちゃんである。アラちゃんはカヌーや山スキー、釣りなどが好きな趣味人である。気心が知れた仲なので気楽に楽しめる。
 待ち合わせは長良川現地である。二人とも基本的にのほほんとした川旅を目指しているのであまり難易度の高くない美濃から岐阜市までのコースが定番である。キャンプおよびカヌーはほんと〜に久しぶりで石川を出る時も探し物でかなり時間を取られた。
 このコースは前半がある程度厳しい瀬のあるところで後半はのんびりしたところだ。一日目は前半の厳しい瀬をこえる事になる。しかも前日の雨で水が濁り増水して流れがはやくなっている。水が濁ると川底が見えない為深さが分かりずらく恐怖感が増す。ちなみにカヌー用語でカヌーがひっくりかえる事を沈と言う。何でもないところで沈する事を粗沈、激流の瀬の中で豪快に沈する事を轟沈と呼ぶ。
 22日の昼頃に美濃に到着し無事アラちゃんと合流。早速テントの設営して昼飯。昼飯は奥さんが作ってくれた弁当とピロシキあとアラちゃんが持ってきた天然酵母パンで済ます。船をピックアップする下流に車を停めに行き準備開始。雪解け水のせいもありまだまだ水が冷たいのでウエットスーツに防水ジャケットと完全防備である。
 今回のカヌーはまさに二年振りに乗るので川に出てから改めて不安定さを思い出す。スキーなどと同じで恐怖感があると体が動かなくなる。何でもない波のはずなのに船がゆれるたびに「水は冷たそうだな〜」、「泳ぎたくないな〜」などと思ってしまう。それでもしばらくすると体が思い出してきて多少緊張はほぐれてきた。そうなると周りを見る余裕も出てくる。まだ鮎釣りの解禁は先なので釣師は少なが川原でキャンプをしている家族が沢山いた。この川はまだまだキャンプできる川原が沢山あるので家族レジャーにはもってこいである。また他の川と比べてもゴミが少なく感じる。
 そうこう思っているうちに瀬に突入、一気にアドレナリンが分泌される。右だ、左だ、この野郎などど心でつぶやきつつ格闘。うまく抜けたと思った瞬間に沈してしまった。流れが速い為沈して流されると100mぐらいは軽く下流に行ってしまう。泳ぎはともかく船を岸にもっていくのが大変である。あせって川底に足をつけると船の重さに引っ張られて最悪は足を骨折しかねない。沈は慣れたものだがこの体力の消耗は何とも言えない。岸に船を上げ船に入った水を出すのだがこれがまた重くて大変である。
 ただし一度沈すると気が楽(やけ)になり緊張も大分ほぐれる。そうすると船を操作する楽しみが出てくる。そのせいかその後は快調であった。しばらく進んでから休憩。アラちゃんが持ってきたパンを食べる。こういった状況で食べるパンがまた美味い。
 後半は余裕が出て来て昔一回習ったカヌー教室を思い出す。しかしそんな余裕が裏目に出たのか何でもないところで粗沈。とっとと上陸して再度乗り込む。沈に慣れるのも良いのか悪いのか・・・そんなこんなで初日は終了。体が思い出して来たところだが体力的には丁度良い。

愛用?カヌー

第二部 戦い済んで
 そんなに長い距離を漕いでないので日が高いうちにカヌーツーリングは完了した。いつもは5時過ぎに上陸して夕食の準備をするので食事をとるのが暗闇の中になる。今回は4時前に完了したのでとっとと着替えてキャンプ地まで戻る。ホント〜に車が二台あると楽である。車が一台しかないと帰りはバスか電車もしくは自転車、公共交通機関は時間的にも場所的にも不便であるし自転車は川上に行くためもちろん全面上り坂である。
 和歌山の揖斐川に行った時はバスが来ず、何のために出かけたのか分からなかった時もあった。恐るべし田舎である。
 買い出しはジャスコで済ませる。海のないところなので魚貝類に良いものがない(川魚もまだシーズンではない)また何となくさびれた雰囲気の店であった。とりあえず夕食の食材と酒を買い撤収。
 夕食は自分がモツキムチ鍋、アラちゃんは七輪焼き担当。今回キャンプに持ち込んだ調味料は 塩・胡椒・醤油・みりん・にんにく・しょうが・唐辛子・みそ・にんにくと唐辛子を漬け込んだオリーブオイルである。中でもみそは便利である。一時期はバジルにはまり持ち歩いていたがさすがに今は飽きた。
 これまでキャンプでテーブルは何となく贅沢品という感があり使用してこなかったが今回より使用。非常にリッチに感じる。モツキムチ鍋は鶏がらから出汁をとったりと手を加えたが、互いに慣れたものなのでとっとと準備完了。こんなに余裕のあるキャンプも久しぶりである。ダレダレの二人なので焚き火もせずテントの中で酒を飲み明かす。歩いていける所に酒が置いてあるコンビニがあるという堕落した立地だったが便利は便利だ。
 酒はアラちゃんが長野の五一ワインを持参。ここのワインは無添加というだけでなく味もいける。ただし長野のある地域でしか手に入りづらいのが難点だ。焚き火を囲みながら会話すると何でもない会話に渋みが増すが今回は男二人でテント密室の中である。色っぽさもなければ渋さもない。それでも好き勝手な事を話している間に時間はあっという間に過ぎる。
 眠くなってきたので、それぞれのテントで寝る事にした。こんな時でも本を読まないと寝れない癖は健在である。今回は久しぶりに図書館よりカヌーイストの野田さんの本を借りてきた。川のせせらぎを聞きながらこの人の本を読むと臨場感たっぷりで面白い。ただし最近野田さんの本の中では失われたというより破壊された日本の自然についての嘆きがますます多くなっているので読んでいて暗くなってしまう時がある。確かに陸から見てきれいでも川の視点で見ると川の汚れが目立つ。またやたらとコンクリートの護岸やテトラポットが多い。年齢によっても綺麗さの基準が違う。特に年配の人にコンクリート信仰者がいるがいつになったら自然工法の整備が出来ていくのだろうか・・・

第三部 爽快
 朝6時過ぎに目が覚めた。テントの中は睡眠に快適とは言えないが、それを補って余りある自然環境である。目が覚めたものの寒く感じてしばらくシェラフの中でごろごろする。7時ごろに表にでるとアラちゃんも目が覚めたようだ。
 お湯をを沸かしコーヒーを飲む。暖かいコーヒーが美味しい。そうこうしてる間に雨が降ってきた。急いでテントを撤収する。
 風もあり昨日と比べても寒い。ターフの中で今日はカヌー日和ではないかなと思いつつも朝食のヤキソバを作る。ソースは自家製である。しかたがないので朝からワインを飲んでいると空が明るくなってきた。出発である。
 今日は昨日上陸したところから続きにしようと思ったがしばらく景色が良くないという事で少しスキップしたところから始める。川原ではそこかしこでデイキャンプを行っている。長良川はそういった川原が非常に多い。カヌーを出発地点に置き、ピックアップ地点の岐阜市へ向かう。
 途中、細い道で猛スピードで向かって来る車がありビックリした。心を落ち着けさせようと車に積んであるカセットテープをかけるとなぜかサザエさんのテーマ曲が流れてくる。リラックスするというより力が抜けた。
 今日下るコースはそれ程厳しくないコースでのんびり下れる。行きしなにビールを二本買い込んだ。しかし自分のカヤックではさすがにそんな余裕はない。コースは厳しくないが風が向かい風で波が立つ。風に負けないよう漕がなければ行けない。川の水は昨日と比べてクリアになっている。水が濁っていると怖い点もあるが心がうきうきしない。しかし以前に比べ雨が降るとすぐに水かさが増し、また水の引きも早いとアラちゃんが言った。それだけ山の保水能力が落ちたという事だろう。
 風はともかく天気が回復して良い日になった。川の流れもちょうど良い。時々鵜も見かける。まさに絶好のカヌー日和だ。
 そう思っている矢先に悪者がいた。悪者とはジェットスキーをしてる人達である。それぞれの趣味とは言えジェットスキーは環境に与える負荷が大きい。油をばら撒いて走っているようなものだ。また音がうるさい。
 以前、タスマニアでジェットスキーをやらしてもらった事がある。最初は興奮したがしばらくすると飽きてしまう。ボートに引っ張られているのでスピードはあるが自然の中で楽しむ必然性がなく動きが単調なのである。その点カヌーは同じ川を下っても毎回違う。その時、その時が初挑戦である。
 のんびり気分ですすみ上陸して休憩。沈する事もなく良い感じである。ビールを飲みながらのんびりする。
 後半ものんびりと進む。しかしそんな油断をしていると瀬の中で轟沈してしまった。しかも急な流れが続いていたため途中から上陸をあきらめ流される事に。ひらき直ると天気も良いせいか気持ちが良かった。大分流されたあと上陸し再度乗り込む。岐阜市に近くなり山の上に稲葉城が見えてきた。川幅が広くなって流れもゆるくなってきた。長良川は岐阜市も通過するがそんなに汚れていない。都市の近くでこんな川があるのはうらやましいものだ。
 スタート地点に戻り昼食を取る。昨晩の鍋に麺をいれて簡単に済ませる。酔い覚ましを兼ねて川原で寝ていくことにした。ここでアラちゃんとは解散である。風と笹の触れ合う音があまりにも気持ち良かったので本も読まずに寝てしまった。
 帰り道も快適で今回は本当に良いカヌーツーリング&キャンプであった。